思いっきり膨らんだバブルが「パチン」と弾けた1990年代初頭の話です。 毎日のように食す豪勢な料理に舌が肥えてしまったため、 民衆はお金がなくてもリッチな味が楽しめる料理を探し歩きました。
そこで注目されたのが、「もつ煮」という料理でした。 もつ煮は、九州が原点とされ、豚の胃腸を味噌でじっくり煮込んだものに、 ネギを乗せて七味唐辛子をふりかけて食す料理です。
そろそろ、勘の良い方は、この枕話のオチが見えて来たのではないでしょうか。
では、「せーの」でツッコミをいれましょう。
せーの、
だいたい、今時もつ煮は流行りません(*1)し、 レクチャーなんか不要ですネ。はい、 つまんないオチですみませんでしたもうしません石投げないで下さいごめんなさい。
ということで、本題。
アマチュアクラシック業界(?)では、何かと略すのが好まれてます。 「べとご」(ベートーベン交響曲5番)とか、 「ちゃいよん」(チャイコフスキー交響曲4番)とか、 知らなければかなり意味不明な言葉です。 個人的には、「英雄の生涯」(R.シュトラウス)を 「ヒデオのイキガイ」と読んだりするのは意外と好きですけど、 これは略称じゃないですね。
あと、方言もあります。ショスタコービッチの交響曲5番を「しょすご」という 人もいれば、「たこご」とか言う人もいます。 後者の規則を採用すると、交響曲8番は「たこはち」という風になりますので、 ちと面白くなります。他にも、 ドボルザークのチェロ協奏曲を「どぼこん」とか略したりしますので、 最近日曜の朝に復活したテレビ番組の主人公、 0点しか取れない赤いロボットのことを思い浮かべたりしたくなっちゃいます。
ただ、文脈に応じて何の略称なのか注意しなければなりません。 オーケストラ仲間で「ぶらに」といえば、「ブラームスの交響曲2番」ですが、 古楽サークル仲間では「ブランデンブルグ協奏曲2番」のことだったりしますから、 話がだいぶ進んでから「あのリコーダーのパッセージが…」とか言って、 全く違う話題で会話していたことに気づく なんていう事態もアリエナイことはないのです。
その流れから行くと、「もつレク」(正確には「モツレク」)は、 「モーツァルトのレクイエム」のことです。
この「もつれく」こそ、私が全く意味が分からなかった略称でした。 その言葉を初めて聞いて、まず私の頭に浮かんだのは「そいつはうまいのか?」。 ま、確かに他の沢山の作曲家もレクイエムを書いているので、 「モツレク」と略したくなるのは分かりますが、 ちょっと無理がありまくりではないでしょうか?
するってぇと何かい、ヴェルディのレクイエムは「べるれく」、 フォーレのレクイエムは「ふぉれれく」とか略すのかい? 大体、ベルリオーズもレクイエムを書いているから、 「べるれく」は重複しちゃうぢゃないか。そのオトシマエはど〜してくれるんだ、 そんな無理な略称じゃあっしは納得しませんぜと、 意味なく江戸っ子に早変わりしちゃいます(*2)。
ま、略称や専門用語を使うと他のフィールドの人からは、 「鼻もちならない」印象を受けてしまうので、 くれぐれも乱用するのはやめましょうネ、というのが結論なんですけどね。
注
今日の推薦CD: | |
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この曲は、本当にヤマホド録音が存在します。 古楽器に限ったとして、ぱっと思い付くだけでも列記すると、
この曲はモーツァルトが書いている途中でおっ死んでしまったため、 弟子のジュスマイヤーが補完したことで有名で、 通常はこの補完も併せて「もつれく」としているようです。 そもそも、普通のやり方でやらないのが古楽演奏家という人種ですので、 極端な例ではホグウッドがモンダー版を使用したり、 ブリュッヘンは間にグレゴリオ聖歌を挿入したりと、 各録音とも一味違った演奏に仕上っているようです。 ここで私がお勧めするのは、最後に挙げたW.クリスティの演奏。 この団体は、歴史に埋もれてしまったバロックオペラの発掘を得意としていますが、 珍しく古典派の大曲に手を出しています。 歌は、当時の発音法に基づいているそうで、 それだけでも一聴の価値はあるかも知れません。 気になる版ですが、 ジュスマイヤーの補完も当時のモノには違いないだろうということで、 原典であるジュスマイヤー版を採用しています。 ドライブ感のある音楽運び、モダン楽器に演奏に比べて小編成の、 澄んだ音色が心地よい演奏です。 クリスティは、比較的有名でない演奏家および歌唱家を起用し、 その演奏家が後に有名になるパターンが多いようです。 とはいえ、この演奏ではテノールソロはプレガルディエン。 レオンハルト指揮の「マタイ受難曲」のエヴァンゲリストを歌い、 好評を博した有名なテノール歌手です。 おまけとして、"Ave verum corpus"も入っています。 |