一つ前のお話の「チェロの野望 Part2」にも 注釈として書きましたが、 最近(1996年から1997年にかけて)、 クラシック業界でピアソラ(*1)が やたらと流行った時期がありました。 古楽野郎のページに「モダン・タンゴ」なんて、 そぐわないかと思われるかも知れませんが、ちょっとおつき合い下さい。
昨今のピアソラブームの火つけ人はヴァイオリン奏者のギドン・クレーメル氏。 この人が出した`Hommage to Piazzolla'(*2)が、 ヨーロッパで売れに売れ、それが日本にも飛び火し、 ピアソラ氏の音楽がブームとなったようです。 このCD、ブーム中に非常に安い値段で店に出ていたので私も買いましたが、 ちょっと醒めた演奏で、なんとなく印象が薄い感じがしました。 ムード音楽としては良かったのかも知れませんが…。
最近ではヨーヨー・マがブエノスアイレス(ピアソラの生まれ故郷)で、 ピアソラが率いていたNew Tango Quintetのメンバーと共演したCDを出しています (このCDのデータは「チェロの野望 Part 2」の 注釈2を御覧下さい)。 ピアソラのバンドネオン(*3)の録音と共演したり、 意欲的な選曲です。さすが世界のトップ奏者だけあって、 自分の味も盛り込みながらピアソラの世界をうまく描画している良い演奏です。 冒頭に収録されている「リベルタンゴ」(Lebertango)は、 確かウィスキーのCMでも使われ、疾走感溢れるカッコ良い曲です。 クラシック好きの初心者が入門用として聴くには最適でしょう。
そもそも私が初めてピアソラを知ったのは、 `Historie de Tango'(*4)という、 フルートとギターのための曲でした。 1993年に「フルートの貴公子」ことパトリック・ガロワ氏が来日し、 ギター奏者(日本人だが名前を失念)と2人のリサイタルをカザルスホールで行い、 たいして期待はしていなかったのですが、予想に反して良い演奏会でした。 で、この曲はトリに演奏されました。 親しみやすいトラディショナルなタンゴからモダン・タンゴまでの変遷を綴った、 フルートとギターともに高度な技術が要求される曲です。 聴いた時は、とにかく斬新な音楽に圧倒されてしまい、 当日の他の曲目は忘却してしまった(*5)のですが、 この曲だけは忘れられずに、1ヵ月後には新宿の村松でその楽譜を購入し、 自分の技量も顧みずにさらったりしたこともあります。
ピアソラは、作曲家としてクラシックの教育も受けていたそうなので、 彼の書く音楽は、ジャズのようでもあるし、 クラシックの現代音楽のようでもあるし、タンゴのリズムの上に築かれた 不思議な音楽ジャンルです。ちょっとナマハンカな知識を披露すると、 タンゴにはコンチネンタル・タンゴとアルゼンチン・タンゴというのがあり、 前者はヨーロッパ中心のタンゴです。基本的には、 19世紀にハバナで発祥した特徴のあるリズム(*6)をベースに 発展して行った音楽です。
こうしてピアソラの曲にだんだん慣れ親しんで来るにつれて、 「やっぱりピアソラは自身の演奏が一番良い」ということを 随所で聞くようになります。 やはりクラシック業界の人間からすると、 作曲家というイメージが強いのですが、 バンドネオン奏者としても優れていたんだそうです。 そこで「そんなに言うなら」と本人の演奏を聴き始めました。 第一印象は、とにかくエロチック。 音楽って、こんなにも官能的になれるのかと驚きました。 とにかくピアソラは本人が最高です。 しかもライブ録音も当たればすごく良いです(たまに外れのCDがありますので注意)。
最後に、 よしむらさんの 「アストル・ピアソラ」というページも紹介しておきましょう。 ピアソラに関するCD探しをするのもヨシ、書籍やQ&Aを読んで勉強するもヨシ。 とにかくお勧めです。
注
今日の推薦CD: | |
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久しぶりに鳥肌が立ったCD。オープニングからして圧倒されますが、 詳細はナイショ。その後にTanguedia IIIが始まります。とにかくカッコ良いの一言。 カッコ良さの中に、強烈に香ってくるフェロモン。 やっぱりタンゴってエロチックな踊りなんだったよなぁと再確認させられます。 最後の`Mumuki'(「ムムーキ」)は本人のお気に入りの曲だったそうですが、 涙モンの演奏です。 本当に本人がそう言ったかどうか分かりませんが、 「絶対、私の今までのアルバムの中で最高の出来である。 私はこれに全身全霊を傾けた」とCDの裏にも書いてありました。 クレーメル氏もマ氏もガロワ氏もどうでも良くなって来るぐらいの名演です。 熱烈にお勧め致します。 |